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福岡高等裁判所 昭和49年(ネ)378号 判決

控訴人

寺山熊一

右訴訟代理人

竹中知之

被控訴人

後藤ミドリ

高橋浦子

右両名訴訟代理人

依田克己

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人らは大分県知事に対し、原判決別紙第二物件目録記載の不動産につき、控訴人に対する農地法第三条所定の所有権移転の許可申請手続をなし、右許可があつたときは、右不動産の各持分につき大分地方法務局別府出張所昭和四二年五月一〇日受付第六、七七八号をもつてした条件付所有権移転仮登記に基く本登記手続をせよ。

三  訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人は主文同旨の、被控訴人らは「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張並びに立証は、被控訴人らの抗弁を、

一、亡寺山斜一は控訴人に対し、その主張の不動産とともに原判決別紙第一目録記載の不動産をも贈与したが、これらは亡斜一の全財産にあたり、右贈与は一四分の一宛の被控訴人らの遺留分を侵害するものである。

二、而して相続開始時の評価である昭和四三年度の固定資産税課税標準額によると、第二物件目録記載の不動産の価格は第一物件目録記載の不動産をも加えたものの一四分の二に満たないので、被控訴人らは昭和四七年一一月六日付控訴人宛の内容証明郵便をもつて、亡斜一の第二物件目録記載の不動産に関する贈与につき減殺請求の意思表示をなし、右郵便はそのころ控訴人に到達した。

三、そこで右滅殺請求の結果右贈与の効力は消滅したので、本訴請求は失当である。

とあらため、立証〈略〉

理由

一請求原因事実は当事者間に争いがない。

二そこで被控訴人らの抗弁につき判断する。

(一)  被控訴人らがその主張のころ遺留分減殺請求の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

(二)  控訴人は被控訴人らの右減殺請求が時効による消滅後になされたものである旨主張する。

イ  遺留分滅殺請求権の一年の消滅期間は、遺留分権利者が滅殺すべき贈与のあつたことを知つたときから進行を開始することは民法第一〇四二条の規定するところである。

ロ  〈証拠〉を総合すれば、被控訴人らが昭和四四年一月二二日控訴人を相手どり、大分地方裁判所に、第一物件目録記載の不動産についての所有権移転登記及び第二物件目録についての所有権移転仮登記の各抹消登記手続を求める訴を提起したこと、同裁判所は昭和四六年二月二二日右事件につき被控訴人ら敗訴の判決を言渡したことが認められる。

ハ  右訴訟は、控訴人が亡斜一から真実これら不動産の贈与を受けていないのに、同人の印鑑を盗用して右各登記手続をしたことを理由とするものであつたことは前掲証拠上明らかであるから、結果的に敗訴に終つたとしても、被控訴人らが始から請求の理由のないことを知りながら、敢えて右訴を提起した等の事情の認められない本件においては、右訴の提起のときに被控訴人らが滅殺すべき贈与のあつたことを知つたものとして、このときを消滅時効の起算点とすることはできない。

ニ  しかしながら、右大分地方裁判所の判決は、第一審のものであるとしても、裁判所の公権的判断であり、しかも前掲証拠によれば、当事者双方に主張、立証を尽させた上、亡斜一が本件各不動産を控訴人に贈与した事実を認定した上、被控訴人らの請求を排斥したものであるから、被控訴人らが右判決に対して控訴した事実があつたとしても、(このことは〈証拠〉により明らかである。)右判決によつて被控訴人らが減殺すべき贈与のあつたことを知つたものとして、このときから時効期間が進行を始めるものと解するのが相当である。

(三)  したがつて被控訴人らの遺留分減殺請求権は右判決のときから一年以上経過した、おそくともその減殺請求の意思表示のときである昭和四七年一一月六日までには時効により消滅し、右意思表示は何らの効果をも発生しなかつたものというべく、その余の判断をまつまでもなく被控訴人らの抗弁は理由がない。

三そうすると、被控訴人らは亡斜一の相続人として、第二物件目録記載の不動産についての控訴人への所有権移転につき、県知事の許可申請手続に協力し、且つ右許可がなされたときは、その持分各七分の一につき控訴人宛の所有権移転本登記手続をする義務があることになり、本訴請求は認容すべきところ、これを排斥した原判決は失当として取消しを免れず、民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(佐藤秀 諸江田鶴雄 森林稔)

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